気になる映画-008
日本からタイに戻る機内で鑑賞。
ENGLISH映画は年間に1~2本しか見ないのでこんな時ぐらいハリウッド映画と思い、、、とにかくここ20年くらいはどんな映画が話題になってどんな俳優が人気だとか全然わかりません。
一通り物色したところまず "DRAFT"の文字に引っかかる。。見出しはケビンコスナー。
プロットを見るとNFLのドラフトについて、そこそこ詳しい人にはただドラフトの裏側をドラマ仕立てにしただけとなるが、わかない人には全然わからない話になるでしょう。。
なが~い前置き
日本を出てから見ることはなくなりましたが、以前は有料放送に加入してNFL(アメリカンフットボール)のゲームを毎週見てました。
当然、贔屓の選手やチームなんかがでてくるので毎年行われるドラフトなんかも楽しみにしてたのです。
ドラフトを楽しむには、素材となるカレッジフットボールの選手にも精通していないといけないわけですが、そこまでは詳しくない。。せいぜい地元に記者のレポートやNFL.comなんかをなんとなく眺めてました。
NBAのドラフトもエキサイティングですが、個人的にはNFLのドラフトは更にドラマがあると思ってます。記憶にある中でも強烈なドラフト当日のトレードが合ったりする。
わざわざ映画にしなくてもNFLのドラフト自体がドラマなんですが、他にやる事もないので見てみようじゃないか!
どんな映画?
ドラマはドラフト前日。。。
シアトル・シーホークスのGMトムからクリーブランド・ブラウンズのGMサニー(ケビンコスナー)に電話が入る、、、。
ドラフトの目玉QB(クォーターバック)ボーを指名できる1巡目1位指名権(ブラウンズが持っているのは7位指名権)をトレードしないか?
チームは長年低迷しており、ここでスター候補のQBをとればクリーブランドもチームも盛り上がる。しかしチームには怪我明けとはいえ堅実なQBドリューがおりサニーの戦略としてはディフェンス選手の指名を検討している。
*この間、各候補選手や代理人からチームの監督やGMにちょこちょこ連絡が入るのですが、この辺の駆け引き(多少でかい事を言ったり、コンペディタ―がいる事をほのめかしたりしていい契約を得ようとする代理人と選手のコンディションなどを見極めるチーム)が面白い。
しかしサニーは自分の意に背いてこのトレードを決定!
チームのヘッドコーチのペンはRB(ランニングバック)を希望していたけど、オーナーやクリーブランドの世論にのせられた。。
チームスタッフも最初は『よくやった!』とばかりに喜んでいたが、トレードの内容を聞いて愕然とする。。
シアトル 1巡目1位 ⇔ クリーブランド 1巡目7位+将来の1巡指名3つ
指名順位を6つ繰り上げる為に将来の1巡を3つ。。。
ドラマでなく現実的にもほぼありえない。。もちろん1位と7位は年によってはとてつもない違いを生み出すけれどかなりの賭けになります。
将来ペイトン・マニングやトム・ブレイディクラスのスタッツを約束されたQBにのみ提示される条件。
自分の記憶にある中で同レベルのトレードが行われたのは二件
2012'
ワシントン・レッドスキンズはドラフト二位指名確定のRGⅢ(ロバート・グリフィンⅢ世)を獲得する為(一位指名はアンドリュー・ラック/インディアナポリス・コルツで確定済)に出した条件
ワシントン : 2012年の1巡目6位+1巡目指名権2つ+2巡目指名権1つ
⇔
セントルイス・ラムズ(現ロサンゼルス) : 2012年の1巡目2位
指名順位を4つ上げるためにこの代償。
ワシントンはこの二位指名権を使ってRGⅢを指名、当時ワシントンはエースRB(クリントン・ポーティス)がオフェンスの中心も年齢・怪我による衰えが出てました。その為新たなオフェンスの目玉が必要だったのですが。。。。
RGⅢは初年度は大爆発したのと下降の理由は度重なる怪我だったのでトレードアップが大失敗とは言い切れませんが。。
1998'
このケースがほぼ今回の作品に当てはまり、作中でもこのトレードの話題でてました。
目玉は将来の殿堂入りQBペイトン・マニングとハインズマン候補のライアン・リーフ
このライアン・リーフが本作のボーとほぼ重なります。
最終的にサンディエゴ・チャージャーズが二位でリーフを指名するのですがその内容は。。
サンディエゴ : 1998年1巡目3位+将来の1巡1つ+2巡1つ+プロボウラーRB1名+1選手
⇔
アリゾナ・カージナルス : 1998年1巡目2位
サンディエゴは指名順を1つ上げるためにこれだけ出してます。
リーフの経歴はNFL在籍4年で出場25試合(先発21試合)
通算QBレーティングは50.0(100.0を超えると一流といわれる)
ボーはかなりリーフもモデルにしているように思いましたね。
この辺がかなりヤバいNFLの歴史上でのトレードアップですが、これと比べても今回のサニーのトレードアップはものすごいリスクがあります。
それでもボー指名が正しいのか?信じられないサニー。。。
他のドラフト候補からの情報、シアトルが何故一位指名をスキップしたのか?が気になる。。。
スタッフを使って再度ボーの情報を集めると問題点がでてきた。
ドラフト候補のLB(ラインバッカ―)ボンテ・マックの言葉からボーはプレシャーに弱く、一度強烈なQBサックを食らうとプレイが消極的になることをビデオで発見。
極めつけはボーの誕生日会でチームメイトが一人も参加していない事がわかる。
この時ボーのファンが集まり警察沙汰になり参加者は調書をとられたが、その中に85名もいるチームメイトやスタッフが一人もいなかった。サニーはこの話をボーに問い詰めるも曖昧な返事で返される。
これらのことからボーはチームを率いるにはリーダーシップが足りないのでは?
実際ボーの一位指名を喜んでいるのはオーナーのモリーナだけ。。
サニーはGMという立場上ボーを指名予定だが本当にほしいのはLBボンテ
チームを率いるヘッドコーチのペンはRBレイ
クリーブランドとシアトルのトレードはドラフト候補のボンテがリークしてしまい全米が知る事になる。地元クリーブランドは待望のスターQB獲得を期待し盛り上がりますが、そのおかげでサニーは他の選手を指名しづらくなる。しかもお気に入りのボンテがリークしたため、すぐに本人に電話を入れ『こんな事はやめるんだ!NFLに入る前からなんでもペラペラ話すような選手と思われてはいけない!』と諭します。
コーチのペンは他のチームに一位指名権のトレードをサニーに持ち掛けるよう画策するなどドラフト開始前に目まぐるしく動きがでる。
この辺はリアリティがあり、実際のドラフトでも本当にこんなことがおこなわれてるんだろう!と思わせます。
指名を前にしてサニーの頭の中はいろいろな人の思惑が入り込んでゴチャゴチャです。
ここでサニーは恋人のアリー(チームの財務担当でサニーの子を妊娠中)に泣き言をいいだす。。昨年までは父親(故人:チームの前ヘッドコーチでサニーがクビにしたが、実は体調を心配した母親からの依頼だった)が作ったチームを引き継いだだけ、今年は自分が作ったチームで勝負したい!
サニーはチームスタッフにQBボーの指名を宣言するも、指名直前までボーのビデオを見たり彼と彼の代理人と電話でやり取りをするなど彼のアラを探す。
そこでやはりボーの人間性に問題があると気づく。。。
ドラフト開始!
一位指名が開始されるもサニーはギリギリまで決断を伸ばす。
そして最終的に決断をしたのは、、、、、
なんと!
LBボンテ・マック!!!
何も聞かされていないオーナーのアンソニーは激怒!
スタッフは驚き!
ペンはRBを指名しなかったことに失望!
クリーブランドのファンは罵声を浴びてます!
唯一涙を流して喜んだのはボンテとその家族のみ。。
開場がざわつく中、指名は続きますが、なんと二位から四位のチームもボーの指名をスキップ、、、サニーが一位指名確定のスターQBをスキップしたことで【ボーには何かある?】と他のチームも他の選手を指名していたのです。
そこで出てくるのが最初にクリーブランドとトレードをしたシアトルのGMトム。
彼が何故トレードをしてきたのか?
この現象をみてサニーは気づきます。
トムは結果的にサニーはボーを指名しないと踏んでいたのです!低迷しているチーム(クリーブランド)がこの年では突出したQBを指名しないとなると、どのチームも上位指名を回避するはず。そこでシアトルの待つ7位でボーが指名できトレードで得た将来の一巡指名三つもとれるといった最高のトレードを思い描いてました。
そこでただの間抜けにならない為サニーはシアトルの前、6位指名権を持つジャクソンビルにトレードを持ちかける。
ココもわかる人にはサニーが何をしたいのかすぐわかる。
シアトルの前の指名権を手に入れ、「QBボーをお前たちの前に指名しちゃうぞ?」どうしてもボーが欲しけりゃトレードしてやろうか?といった話をするため。
ここでのポイントはジャクソンビルがすでにいいQBを持っている事、この年のドラフトでメインのポジションでの指名が必須ではないことが条件。
結果サニーはジャクソンビルに将来の二巡指名3つを渡す(この時点で一巡目はシアトルに渡しており持ってない)事でトレード成立!
晴れてトムと再交渉ができます。
この時オーナーのアンソニーがボーの指名を見送ったサニーをクビにするためオフィスに来てましたがひとまず事の行方を見守ります。サニーも首にするのはちょっと待ってろ!といった雰囲気を出す。
そしてトムとの交渉。
思惑を見透かされたためジリ貧です。。。ここまできてボーを逃すとシアトルのファンから罵声を浴びせられるのです。
まずは当初渡した一巡目を全て返せ!とサニーは要求。
もうこの時点でかなり理不尽な取引。。。
最初のトレード
シアトル 一巡1位⇔クリーブランド 一巡7位+将来の一巡3つ
12時間くらいしてドラフト中だとこうなる
シアトル 一巡7位+将来の一巡3つ⇔クリーブランド 一巡6位
トムは悩み数十秒時間をくれと。。
シアトルのオーナーの許可をとります。
この間サニーは悩んでいるトムへさらに追い打ちをかける準備、『おい!他に必要なポジションないか?』
ここでアリー『SP/スペシャルチームよPR/パントリターナーをとって!』
よし!それで行こう!
この雰囲気からシアトルのPRはプロボウル級だと感じさせます。
トム「OK!条件を飲もう!」
サニー『ダメだ!気が変わった、その条件にPRをつけろ!』
トム「そんな!酷い話だ!」
サニー『よし、それならこの話は無しだ!ボーはいただく!お前はシアトルでアホ呼ばわりされていろ!』
こうなるとトムは降参するしかありません。。。
このトレード成立でシアトルはボーを指名
クリーブランドはここまで残っておりペンが望んでいたRBレイを指名!
この時、ペンがレイにかけるセリフが泣ける。。。
「おい、親父さんと同じチームでプレーしたくないか?(レイの父は元クリーブランドの選手)」
この大逆転でクリーブランドは皆が望む最高の布陣を整えることができました。
ここでのポイントはこの順位までLBレイが指名されなかったことにあります、もしレイが残っていなかったらサニーはこのトレードはしなかったでしょうし、内容が薄くて三流映画になってたでしょう。
この話はドラフトの話なのでこの後チームがどうなったかなどは描かれてません。
感想
本作ではケビン・コスナー演じるNFLチームのGMサニーを中心としたドラフト戦略、恋愛、家族愛が描かれてます。
ブラッド・ピットが演じたMoneyball(2011)あたりは似通ったジャンルですがMoneyballほど理論的な作品ではありません。
そもそもこのタイプの映画が何故いままでなかったかが不思議でならない。
本作はアメリカのスポーツのドラフトを全く知らない方と少しでも知っている方で解釈の差がかなりできます。
今回QBボーがドラフトの中心になりましたがNFLの世界でQBは勝敗の半分を占めるといってもいいでしょう。野球の4番打者やエースより比重の高いポジションで、ドラフトやトレードでチームのエースQBの選択を誤ったり怪我で失うとチームのシーズンは終了します。
NFLは年間1チームあたり17試合(2022年までは16試合)なのでQBが外れると立て直しができないのです。
この常識を覆した例は自分がNFLを見始めてからは1度だけ。
2001年シーズンのトム・ブレイディ
今回は映画の感想なので詳しくは書きませんが、とにかくそれだけQBは重要なポジションなのです。
NFLドラフトを全く知らない人がどれだけ楽しめるかわかりませんが、興味のある方にはフィクションとはいえドラフトのドラマを堪能できる良作です。
普段全く見ないハリウッド映画ですが、久しぶりに見た本作は当たり作でした。