さすらい /Im Lauf der Zeit(West German'1976)
インド映画しか見ていないように見られがちですが、
映画鑑賞のルーツは時代劇とジャッキーチェン。
日本映画、アニメなども少しはみましたが、小学校の時近所の映画館に友人と二人で見に行ったのは主にジャッキー映画でした。
その後、スタローンやシュワちゃんをTVでみてましたが、80年代半ば~90年代はハリウッド映画の特撮に馴染めず、他のアジア映画やヨーロッパ映画を観るようになります。
やはり映画はロケしてなんぼだろう!と思っていたんです。
ボリウッド映画を観ることは流石にありませんでしたが、サタジット・レイ作品はいくつかは見ることができ"The Apu Trilogy/オプー三部作"あたりはTVでもみれました。因みにレイ作品では三部作よりは遠い雷鳴の方が好き。
この期間は、主にヨーロッパ、中国映画を狂ったようにみており主に
ピエル・パオロ・パゾリーニ(イタリア)
ミケランジェロ・アントニオーニ(イタリア)
ニキータ・ミハルコフ(ロシア)
クシシュトフ・キェシロフスキ(ポーランド)
アッバス・キアロスタミ(イラン)
マジッド・マジディ(イラン)
モフセン・マフマルバフ(イラン)
テオ・アンゲロプロス(ギリシャ)
エミール・クストリッツァ(ユーゴスラビア)
チェン・カイコー(中国)
この辺りの監督作、特殊上映が行われるとほぼ東京まで出向いて映画漬になったものです。
そして上記のメンバーに加わるドイツ人映画監督が今作『さすらい』の
ヴィム・ヴェンダース!
エンド・オブ・バイオレンス(1997)でアメリカウケするような作品を作るようになってからはあまり見なくはなりましたが、それ以前の作品は劇場で何度となく見てきました。
その中でガッツリハマってしまったのが『まわり道(1975)』『パリ、テキサス(1984)』と本作。
まわり道はナスターシャ・キンスキーのデヴュー作
パリ、テキサスは映画好きには説明不要でしょう。
監督 : ヴィム・ヴェンダース
脚本 : サム・シェパード
音楽 : ライ・クーダー
そして、ナスターシャ・キンスキーの出演。。
完璧なんです。。。
この完璧な映画と同じクラスの評価をつけられるのが本作。
日本に居た頃にDVDをプレイヤーを持っていないにも関わらずDVDを買ってしまいました。
DVDを買ってからはほとんど見なくなりここ7,8年は見ていません。
久しぶりにこの雰囲気の映画が見たくなりDVD鑑賞。
Im Lauf der Zeitという映画について
ドイツ語は全く解りませんが、Im Lauf der Zeit=時の流れとともに といったような意味だそうです。
ヴィム・ヴェンダースのロードムービー3部作の3作目。他の2作も実にいい作品でしたが、本作には一つ上の評価をつけます。
専門家からの評価も高く【カンヌ国際映画祭 FIPRESCI賞】を満場一致で受賞。
*日本語訳では批評家連盟賞となるらしくボリウッドでいえばFilmfare Critics Award for Best Filmにあたる賞。
作品は白黒で撮られており、挿入歌は哀愁漂いどれも素晴らしいブルースです。
音楽はImproved Sound Limitedというドイツの5人組バンドが担当。
そして撮影はオランダの名撮影監督Robby Müller
一昨年に亡くなりましたが、初期のヴィム・ヴェンダース(ロード3部作やパリ・テキサスなど)、アメリカに行ってからはジム・ジャームッシュの映画など個性の強い監督の作品を手がけました。
映画の脚本は最初の主人公の二人が出会うシーンのみ事前にできており、残りは俳優の即興、または道中で日々追加してできあがります。
いくつかの撮影地を決めたてはいましたが、ほとんどのシーンは道中に立ち寄った場所で撮影をしてます。
撮影地は旧東西ドイツの国境線であるエルベ川沿い。
撮影地のイメージはアメリカの写真家Walker Evansからの影響があるようです。
要は、ロケーション、脚本はほぼ俳優陣とスタッフのアドリブで作られたものでこれぞロードムービーといった作品。
上映時間は175分
本編
冒頭ー劇場が少なくなったな。。。
この映画の主人公の一人ブルーノ(リュディガー・フォーグラー)はある老映画館オーナーと話している。老オーナーは「昔はそこら中に映画館が沢山あった。。。今はほとんど劇場がすたれてしまったよ。。。」と語る。
昔は?この作品1970年代なのですが、TVの普及によりすでに劇場が廃れている時代だったんですね。
確かに自分の幼少期は秋田のド田舎でも子供が自力でいける町の映画館がありました。
ほんとうに掘っ立て小屋みたいなとこで3本立てみたいな。。。
もちろん現存しているわけもなく、今では日本全国ほぼ映画館といえばシネコンになるでしょう。
男たちの出会い
ブルーノは流れの映画撮影機材の技師をしておりいつも大型のワゴンを走らせている。
ある日湖の湖畔にワゴンを止めて髭を剃っていたいたところに、目をつむって車を高速で走ってくるアホな男を見かける、この車はそのまま湖に突入し男はトランクを持って脱出、車は水没していきます。。
ブルーノ「カミカゼだな・・・」
このロベルト(ハンス・ツィッシュラー)は妻と離婚しヤケになり軽い気持ちで入水自殺を試みたと見えますがあっさり脱出、脱出ご湖畔でブルーノと出会いワゴンで行動を共にするように。。。
この辺のブルーノのあっさりと見知らぬ男を受け入れるあたりの演技がなかなかいい。
ブルーノがワーゲンで湖に突入していくこのシーンはお気に入りのシーンひとつ。
妻に死なれた男との出会い
ワゴンを止め夜を過ごしていた町はずれ。。
夜中に近くの工場で音がするのでロベルトが見に行きます。
そこには一人の男がいて塞ぎ込んでました。
ロベルトが声を掛けても「ほうっておいてくれ!」と。。。
ロベルトは言われる通り放っておきワゴンに戻ったのですが、しばらくして男がやってきます。ワゴンの後部倉庫に黙って入ってきて身の上を話し始めます。
男はこの日外出中妻に自殺されていました、男の妻は車で立木にぶつかっていって自殺しており車はまだ木にぶつかったまま。。
車は日中撤去にくるそうで、それまで一緒に居てほしいと懇願します。
ロベルトは「先に行かなくてはいけないので。。。」とブルーノの顔を観ます。
ブルーノは穏やかな顔で「急いでないよ。。。」と一言。。。
このシーンでのブルーノとロベルトがカッコいい。。
夜な夜な重い身の上話を語る男に対してただ椅子に座って黙って聞くロベルト。。。
先を急がなくては?と尋ねるロベルトの問いに「急いでないよ。。」と話すブルーノ。。
この「急いでないよ。。」の一言に男の優しさが込められており、改めてリュディガー・フォーグラーという役者の素晴らしさが見えます。
ここでの二人は本当にイカします。
ある地方上映会での余興
ある田舎町の閉鎖した映画館での上映会、観客は学校の先生と生徒たち。
映画上映が待ちきれず生徒たちは騒ぎ出す。。
速くしてくれ!と先生はブルーノとロベルトを急かしますが音響機器が故障しており修理しなくてはならない。。
この時既にロベルトはブルーノの仕事(流れの映画技師、映画機器の修理工)をサポートするようになっています。
手伝ってはいるもののロベルトはあまりやる気が見えず。。。
しかし、ふとしたことから裏側のライトを作動してしまい二人の仕事が影絵となってスクリーンに映し出されます。
ここで二人は修理作業を止め影絵によって子供たちを楽しませるのです。
二人のエンターテイナー振りが見えるシーン。
閉鎖した劇場にこのような形で上映するようなことは本当にあったのでしょう。
遅ればせながらこの辺りで冒頭の老映画館オーナーとブルーノの会話が結びつきます。
ロベルト~父に会う
ここではロベルトが父に会いに行くため一時ブルーノと分かれます。
ロベルトの父は地方で印刷業を営んでおり未だ現役。父と会うのは母が亡くなって以来で約8年ぶり。ここで父に対して「なぜ母をないがしろにしたのか?」と非難をするつもりでしたが、老いた父を見たせいか「女性の尊厳は?」といった間接的な父への非難の記事を作成するにとどまります。
ブルーノが迎えに来たところでロベルトは父の元を去るわけですが、その際の抱擁は父との最後の別れのようです。
ブルーノとポーリンの出会い
ブルーノは遊園地?のゴーカートコーナー(子供が遊ぶ天井に固定されたもの)ではしゃぐ女性を見かける。なかなかいい歳をしており不思議な魅了を持っているとスクリーンを通して伝わってきます。ブルーノは直ぐに声を掛けますが相手にされず女性は去ります。その日ブルーノが映写機の調整に向かった劇場のチケット売り場に座っていたのは彼女!
名前はポーリン
この劇場オーナーの孫娘。
映写機の調整中に技師が逃げ出してしまった為、ブルーノは映画が終わるまで映画を回すことに。。。
この作品唯一のラブシーン?
映画館のソファで数時間添い寝するだけのものですが、とても印象的なシーン。
初めて見た時は「この後、ブルーノはこの町に戻ってくるのだろうか? いや、戻ってきてほしい」など思ったりしたもので、このポーリン演じるリザ・クロイツァーがなんとも魅力的なのです。
別れの時にも言葉はなく、さすらう男とそれを見送る女の場面がただ流れます。
ブルーノの故郷へ
父と分かれたロバートはブルーノの故郷へ行こうと提案。
二人はロバートの友人宅にワゴンを預け代わりに古いサイドカーを借ります。
古いサイドカーを無理やり借りるシーンですが、二人の息があっており何年もつるんでいる詐欺師コンビを思わせます。
倉庫からサイドカーを出すブルーノ
ほぼ1日かけてブルーノの故郷へ走る
やはりどんな時でも男二人でサイドカーを走らせる姿はかっこいい!
Yeh Dosti Hum Nahi Todenge | Sholay(1975)| Amitabh Bachchan | Dharmendra | Evergreen Friendship Song
男二人でサイドカーを乗るシーンとなればやはりこれ!
インド映画で最も有名な映画の中の最も有名なシーンのひとつ
サイドカーを川っぺりに停め、川の中州に手漕ぎボートで向かいます、ブルーノは「冬になると家が見えるが、夏は見えない(木が葉をつける為)」と淡々と話しますが、町育ちのロベルトは興味深々。
家は廃墟となっておりブルーノは手探りで探索、この辺のカメラワークやブルーノの動きはドイツの巨匠F・W・ムルナウの作品を参考。言われて見れば廃墟への侵入シーンや照度なんかが吸血鬼の館(Nosferatu'1922)に入って行く感じです。
ここでのブルーノは終始感傷的な演技をしており、家の中を物色していく中で幼少期に格下であろう宝物も取り出します。
ロベルトの方は家の中には入らず庭でブルーノを待ちます。
注:ここではほぼセリフがないのでブルーノの演技から目を離せません!
ここで一晩過ごすわけですが、ロベルトはそのまま庭の地べたで転がって寝てました。
家の中で一晩過ごしたブルーノ一睡もせず庭のロベルトはぐっすり。
いち早く父と会い、ある程度わだかまりを清算したロベルトが、ブルーノの引きずっているものを取り除くチャンスを与えた友情が描かれています。
チャンピオン
故郷を見て心にあったわだかまりが晴れたブルーノとロベルトは次の依頼地へ向かいます。
その途中、この映画で最も印象的なシーンのひとつ
車道にあったモニュメントをみて
「最後に裏切られたが、今、俺は自由になった!」
と晴れ晴れたようなことをいい
ブルーノは「チャンピオンだな。。。」とつぶやきます。
アメリカホテル
このあたりになると二人の旅の終わりが感じられます。
東西ドイツの国境で一晩を過ごします。
その建物は古い検問所のようでありますが、室内にはアメリカの言葉や雑誌の切り抜きがありました。
先ほどチャンピオンになったはずのロベルトですが、別れた奥さんに連絡をしようとしたところこころの隙をブルーノに突かれます。
翌朝、ロベルトは書置きを残してブルーノの元を去り、、、
書置きには
『このままではダメだ、さようなら。。。 R』
と書かれてましたが、これは決して喧嘩別れではなく自分が次のステップに進む時が来たための出発です。
ラストシーン
ロベルトは空のアタッシュケース(中身は途中ですべてすてているので空っぽ)を持ち、駅で記者を待つ。
待っている間にノートに何かメモしている少年と話をするのですが、ここのやり取りも印象的でなかなか面白い。
ロベルトは少年に鞄とサングラスをあげるからそのノートと交換してくれないか?と提案。少年は快諾し、ロベルトは一人汽車に乗り込みます。
バンを走らすブルーノは途中並走する汽車の中にロベルトを見つけます、、
『見たぞ! カミカゼ』
ロベルトもブルーノのバンを見つけ
『これでいいんだよ。。』
挿入歌
忘れていけないのがちょこちょこ入ってくるバックミュージックと二人がワゴン内で聞く音楽。どれも映画にマッチしており、この映画が好きな方は必ずこれらの音楽も気に入ると断言できます。
Improved Sound Limited - Nine Feet over the Tarmac
Improved Sound Limited - Nine Feet Over the Tarmac
作中何度か登場する曲。
使われているのはこの曲のinstrumentalバージョン。
このインストバージョンは秀逸!すばらしいブルースです。
Heinz - Just Like Eddie
終盤、ワゴン内でブルーノとロベルトがノリノリでハモリます。
お互いの故郷によりすっきりしたところでロベルトがワゴンにあったレコードからチョイス。
Roger Miller - King of Road
映画の英語タイトルにもなっているKing of Road
ロベルトと別れて一人バンで走るブルーノが映画の終盤でチョイスしたのがこの曲。
ひさしぶりに『さすらい』を見終えて。。。
映画というものがどういう風に作られるかわかりませんが、
この映画の場合、どういった過程で作ればこのような映画ができあがるか?
ある程度の撮影地などはきめてましたが、脚本は前日、当日に追記を繰り返してます。
この時代の映画人のセンスと実力は計り知れないものです。
二人の主人公はもちろんかっこいいのですが、作品をみてもわかるようにかっこいい、優しいだけではなく、みっともなくも弱い部分を持ち合わせておりキャラクターの魅力を引き上げてます。
やはりブルーノ役のリュディガー・フォーグラーは素晴らしい!
今まで見てきた俳優の中で雰囲気の良さはトップクラスです。
個人的に演技力などは別として最重要に位置付けている5人の俳優(男性)の一人。
最重要Actorの5人
左からリュディガー・フォーグラー(ドイツ) 、ボビー・デオール(インド) 、シャシ・カプール(インド) 、セルジ・ロペス(スペイン) 、ジョン・トラボルタ(アメリカ)
ロベルトを演じたハンス・ツィッシュラーももちろん素晴らしい!彼は演出、翻訳などもこなす才人で俳優業はあくまで時間の空いた時だけ受けてます。
紅一点のリザ・クロイツァー
スポット出演も怪しい魅力を出してます。 ヴィム・ヴェンダースとは当時恋人関係にありました。ナスターシャ・キンスキーに通ずる雰囲気がありこのタイプが監督の好みのようです。
また、ほかに出てくるキャラも魅力的でほとんどのキャラクターが変人でまともな人はでてきません。
久しぶりにみましたが、やはり素晴らしい映画です。
時代背景もありますのでこのような映画今後出てくることはないでしょうが、ヴェンダースやアントニオーニの作品を10年くらいの周期で繰り返しみていくのもいいかもしれませんね。。